庭掃
庭掃、または庭掃き(にわはき)は、
中世(12世紀
-
江戸時代(
略歴・概要 [ 編集 ]
平安時代中期、10世紀末に書かれた『枕草子』や、平安時代後期、11世紀後半に成立したとされる作り物語『狭衣物語』に、すでに慣用句として「芹摘む」という語が登場する [4] [5] 。これは、禁中( 御所)の「庭掃」が皇后に恋焦がれて芹(セリ)を摘むが、恋はかなわず焦がれ死んだ故事に由来するものとされており [4] [5] 、遅くとも10世紀には「庭掃」が存在したことを意味する。
鳥羽天皇の時代(12世紀初頭)、藤原宗忠の日記『中右記』のユリウス暦 1114年 4月24日(永久2年旧暦3月18日)の項に「又召次並鳥羽殿庭掃事、仰云、任法可行」とあり、京都近郊、山城国 紀伊郡 鳥羽(現在の京都市 南区上鳥羽・同市伏見区下鳥羽)に存在した広大な鳥羽殿(鳥羽離宮、一部を除き現存せず、跡地は鳥羽離宮公園・安楽寿院等)の「庭掃」について言及されている [1] 。
猿楽の世界から世阿弥が登場する14世紀後半より以前に成立したとされる『綾太鼓』(あやのたいこ、現在の雑能『綾鼓』)には、主役(シテ)として、女御(ツレ)に恋する「庭掃」の老人が登場する [6] 。これはのちに三島由紀夫が書いた戯曲『 綾の鼓』(『近代能楽集』、1951年)では、「老小間使」として描かれる役どころである。
室町時代、15世紀末の1494年(明応3年)に編纂された『三十二番職人vera&john ベラジョン オンラインカジノ 評判』の冒頭には、「いやしき身なる者」として、「
- 名にたてる こや庭はきの 家の風 花をわが世の 朝きよめかな
というものであった [1] 。ここに描かれた「庭掃」も「農人」も、いずれも帯刀している [8] 。鈴木棠三は『日本職人辞典』において「庭掃」を、「所謂下男の事である」と記しているが [9] 、遠藤元男によれば、衣裳・装束や年少者の労働力を伴っている点から、「庭掃」とは下男・下僕のような存在ではなく、清掃に関する技術的な側面も含めた労務を提供した職業であった、と指摘している [8] 。15世紀は、重商主義的社会であり、農本主義的価値観が退けられ、「農人」が賎視されるとともに同じ土を扱う「庭掃」が対になって描かれているのであろう、という指摘もある [10] 。原田伴彦は、同vera&john ベラジョン オンラインカジノ 評判における「庭掃」を「即ち庭者」としている [11] 。 庭者 、あるいは庭の者(にわのもの)とは、武家の庭掃除等を行う下級役人であり、室町幕府では庭奉行の配下にあった [12] 。
16世紀に入り、1520年代(大永年間)の京都市内・郊外の光景を、細川高国が発注して狩野元信が描いたとされる『洛中洛外図屏風』の右隻3扇には、二条邸(押小路烏丸殿、現存せず、現在の京都市中京区 二条殿町近辺)を掃く「庭掃」の姿が登場する [2] 。この人物は裸足のようである [2] 。
近世(17世紀 - 19世紀)の時期、信濃国(現在の長野県)の東部から北部・中部地域にかけて、「庭掃」と呼称・自称する穢多身分の者たちがいたことが指摘されている [3] 。例えば慶安2年(1649年)上田藩では「かわた」を城下に集住させ、本来の皮革業や警察(与力同心)の下働き、刑場での刑吏の他、「庭掃」として寺社や城、領主屋敷の清掃役を命じている [3] 。また明和9年(1772年)の同領内の宗門改め帳では、村の真言宗寺院の「庭掃」を乞食が代々務めている事例がある。江戸幕府ではこの時代、「庭者」(庭の者)は、若年寄の支配下に置かれた [12] 。
脚注 [ 編集 ]
- ^ a b c d 庭掃 、Yahoo!辞書、2012年9月12日閲覧。
- ^
a b c d 庭掃き(右3)、国立歴史民俗博物館、2012年9月12日閲覧。 - ^ a b c 斎藤、p.47-58.
- ^ a b デジタル大辞泉『芹摘む』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。
- ^ a b 大辞林 第三版『芹摘む』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。
- ^ 世界大百科事典 第2版『綾鼓』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。
- ^ 小山田ほか、p.142.
- ^ a b c 遠藤、p.178.
- ^ 鈴木 [1985]、p.212.
- ^ 網野・石井[2000]、p.133.
- ^ 原田、p.24.
- ^ a b デジタル大辞泉『庭の者』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。
参考文献 [ 編集 ]
- 『日本職人辞典』、鈴木棠三、東京堂出版、1985年10月 / 新装版、1998年9月 ISBN 4490105010
- 『職人の誕生』、遠藤元男、「ヴィジュアル史料 日本職人史」、雄山閣出版、1991年6月 ISBN 4639010338
- 『江戸時代の職人尽彫物絵の研究 - 長崎市松ノ森神社所蔵』、小山田了三・ 本村猛能・角和博・大塚清吾、東京電機大学出版局、1996年3月 ISBN 4501614307
- 『原田伴彦論集 第4巻』、原田伴彦、
思文閣出版、2000年 ISBN 4784204008 - 『米・百姓・天皇 - 日本史の虚像のゆくえ』、網野善彦・石井進、大和書房、2000年5月
ISBN 4479840524
- 文庫版 : 筑摩書房、2011年1月8日 ISBN 4480093486
- 『被差別部落の生活』、斎藤洋一、同成社江戸時代史叢書、同成社、2005年10月 ISBN 4886213367