ヒノキ
ヒノキ | |||||||||||||||||||||
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開花時期のヒノキ
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保全状況評価 [1] | |||||||||||||||||||||
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) |
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学名 | |||||||||||||||||||||
Chamaecyparis obtusa ( Siebold et Zucc. ) Endl. [2] | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
ヒノキ | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Hinoki cypress, Japanese cypress | |||||||||||||||||||||
変種 | |||||||||||||||||||||
本文参照 |
ヒノキ(檜木/檜
[3]
/桧、学名:
Chamaecyparis obtusa
)は、
名前 [ 編集 ]
- 和名 ヒノキの語源は、尊く最高のものを表す「日」をとって「日の木」を由来とする説 [4] と、古代において木をこすって火を起こすのに用いられたので「火の木」という意味だという説 [5] [3] とがある。
- 語源由来辞典は、上代特殊仮名遣において、「ヒノキ」の「ヒ」は甲音である一方、「火」の「ひ」は乙音であることから、「火の木」説は妥当ではなく、「日の木」、あるいは神宮の用材に用いられることから「霊の木」のいずれかが語源と考えられるとしている
[6] 。
- ホンヒ [7] 、ヒバ [7] との俗称もみられるが、植物学的に「ヒバ」はヒノキ科アスナロ属に属する アスナロ またはその変種のヒノキアスナロを指すので、正確にはヒノキとヒバは全く別の植物である [8] 。
分布 [ 編集 ]
- 乾燥した場所を好み、天然のものは尾根筋の岩場などに見られ、特に 木曽の天然林は有名である [9] 。典型的な陰樹の特性を持ち、幼樹は日当たりを嫌う。
- 林業分野では高級建築材として、高度経済成長期の木材需要の増大に応えるため北海道や沖縄県を除く広い地域で人工的に植林されている。
[3]
。人工林のうち約25%がヒノキ林である
[14] 。
形態 [ 編集 ]
常緑 針葉樹の高木 [3] 。樹高は20 - 30メートル [3] 。大きいものでは高さ50メートル、直径2.5メートルになるものもある [5] 。直幹性で樹皮は赤褐色で [3] 、帯状に剥がれる。
葉は鱗片状で濃緑色をしており、枝に密着して交互に対生(十字対生)し [11] [7] 、枝全体としては扁平で、細かい枝も平面上に出る。同科のサワラの葉と似るが、葉先がサワラよりも丸みを帯びていて、葉裏の白い気孔帯がY字状になっているのがヒノキである [7] 。
花期は4月 [7] 。雌雄同株 [3] 。雄花は長さ2 - 3ミリメートルで枝先に1つずつ、全体に数多くついて茶褐色をしている [3] 。風媒花で、春に花粉を飛散させる。雌花は直径3 - 5ミリメートルの球形で枝先につき [3] 、熟すると膨らんで果実になり鱗片に隙間ができる。
果期は10 - 11月 [3] 。果実は球果で、大きさは直径8 - 12ミリメートルで赤褐色に熟す [7] 。冬になっても、赤褐色の果実が枝葉について残っており、その形はサッカーボールを思わせる形状である [9] 。
-
樹皮は赤褐色で薄く裂ける
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鱗上のヒノキの葉。裏面の気候はY字型
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参考:サワラ(C.pisifera )の葉の裏面
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参考:ヒノキアスナロ(Thujopsis dolabrata、ヒバ)の葉
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若い球果
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裂開した球果
生態 [ 編集 ]
ヒノキと並ぶ針葉樹であるスギがかなり多雪に強くブナと並び日本海側にも広く分布するのに対し、ヒノキの分布は太平洋側に偏る。ヒノキは多雪に弱く、雪の移動によって損傷しやすいという [15] 。ただし、ヒノキはスギに比べて酸性が強く乾燥したような劣悪な土壌には強いといわれ、経験的にも造林する際には雪が少なく乾燥しがちな尾根筋や斜面上部に植えられることが多い。アカマツ(Pinus densiflora、マツ科)もヒノキと同じく多雪に弱く [16] 、尾根筋に多い樹種である。アカマツとヒノキを比較した場合ヒノキの方がより塩基性の土壌を好むという [17] 。
ヒノキは浅根性といわれることが多い樹種である。野外観察でもヒノキ実生は急斜面には定着できず、急斜面にしばしば出現する深根性のモミ実生とは住み分けているという [18] 。ヒノキの根は菌類と共生し菌根(mycorrhiza)を形成している。ヒノキが形成する菌根は草本植物や熱帯の樹木に多いといわれるアーバスキュラー菌根(arbuscular mycorrhiza, AM)と呼ばれるもので、温帯域で繁栄しているマツ科針葉樹やブナ科広葉樹が形成する外生菌根(ectomycorrhiza)とは異なるものである。
マツ科針葉樹ではしばしば アレロパシー(他感作用)を持ちほかの植物の生育を阻害しているする報告がしばしばある [19] [20] が、ヒノキでは特に知られていない。
光環境から見た場合、典型的な
ヒノキの葉の C/N比(炭素と 窒素の比率)は110程度 [22] と高いが、鱗状であるために分解されやすくヒノキ林の林床は落ち葉の堆積は少ないことが多い。この分解の速さが土壌や生態系に影響を与えていると見られる。また、このような葉の性質上、土壌が比較的侵食を受けやすい(影響については後述)。
スギ同様挿し木繁殖も比較的容易とされており、ヒノキの産地は苗木の生産方法として実生によるものと挿し木によるものに分けられる。
全体的にはあまり差がないとされるが遺伝子的には4つの集団に分かれるという [23] 。
-
斜面一面に造林されたヒノキ(三重県)
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ヒノキ(画面右端)、スギ、モミと広葉樹が混在する林分(神奈川県)
漏脂病 [ 編集 ]
漏脂病はヒノキをはじめとするヒノキ科樹木における最重要の病害であり造林上の大きな課題となっている。罹病個体は患部から樹脂を垂れ流し続け、形成層が部分的に壊死することで樹幹が変形し木材としての価値を失う [24] 。比較的根元に近い部分が被害を受けることが多いという [25] 。原因については長らく不明であったが、菌類の一種であるCistella japonicaが関与していることが報告されている [26]
トックリ病 [ 編集 ]
トックリ病(徳利病)は地際の幹が徳利のように肥大する病気である。漏脂病ほど致命的ではないとされるが肥大部の材質は劣化しており歩留まりが低下するため利用上問題となる。ヒノキでは成長の良い沢筋や疎林で発生が多いとされている [27] が、原因は特定されていない。
人間との関わり [ 編集 ]
ヒノキは スギ(Cryptomeria japonica、ヒノキ科スギ属)、アカマツ(Pinus densiflora マツ科 マツ属)、カラマツ(Larix kaempferi マツ科カラマツ属)と並んで主要な林業用の針葉樹である。造林の主な目的はその幹から製材される木材であり比較的軟らかく加工性に富むこと、幹が通直で歩留まりが良いこと、腐朽に対する耐性も高いことなど様々な利点を持つ。
ヒノキの主要産地は西日本に多く、岡山県、愛媛県、高知県、熊本県などが丸太生産量上位の常連である。寒冷地では漏脂病、豪雪地では折損のリスクが高いために植栽されることは少ない。経験的には人工林としての植栽の北限は宮城県北部から岩手県南部付近ではないかと考える人が多く、奥羽山脈沿いで仙台市付近、北上山地や三陸海岸沿いで気仙沼市や陸前高田市付近だとされる。東北地方各地での調査の結果、最低気温-8℃以下および最深積雪1.0m以上、斜面下部などは不適地であり、これらを避けてアカマツを上層、ヒノキを下層にした複層林施業を行えば北限地域でも植栽面積は増やせるのではという意見もある [28] 。
木材 [ 編集 ]
ヒノキは、日本では建材として最高品質のものとされる [3] 。木材の特長として、色が白く、加工が容易な上に緻密で狂いがなく、耐水性や耐朽性に富んで光沢があり、日本人好みの強い芳香を長期にわたって発する [3] [11] 。正しく使われたヒノキの建築には1,000年を超える寿命を保つものがあり、ヒノキ材の強度は伐採後徐々に増加し、300年後に最も高い強度を示し、1000年後に伐採時の強度に戻ると言われている [9] 。現在では一般家庭でも多く使われ、特に和式の様式を持った建築物に高級材として使用され、建築費が高くつくため「檜御殿」という言葉も生まれている [11] 。木肌のぬくもりと芳香が好まれて、ヒノキ材を浴槽にした檜風呂も作られる [9] 。
木目が通り、芳香があって加工がしやすく、斧や楔で打ち割ることによって製材できるヒノキは、古くから建築材料として用いられてきた。『
奈良時代以降の仏像にも、多くはヒノキが使われた [9] 。江戸時代前期の修験僧である円空が彫った仏像(円空仏)は、ヒノキで彫ったものが多いといわれる [9] 。
伊勢神宮では20年に一度、社を新しく建て替える式年遷宮と呼ばれる行事が行われ、大量のヒノキ材が必要となる。古くは伊勢国のヒノキを使用していたが、次第に不足し、三河国や
名古屋城の本丸御殿はヒノキ材で建てられていたが太平洋戦争の名古屋大空襲で焼失した。しかし平成後期の2009年より再建工事が執り行われ、木曽ヒノキによって復元された。
-
復元された名古屋城本丸御殿(2018年春)
ヒノキ材の枯渇問題
[
編集
]
上記のようにヒノキは有用な樹種であり、古代より多方面で建材に使用された。そのため日本の歴史の流れと共に大径材の枯渇が顕著となる。このヒノキ材枯渇のありさまが、東大寺の歴史からうかがえる。
創建当時の東大寺は、近江国の 田上山はじめ近畿地方各地の山林で得られたヒノキ材で建造されていた [31] 。創建当時の東大寺大仏殿の部材 [32] について、平安時代後期に記された『七大寺巡礼私記』によれば大仏殿の柱は末口(柱の先端)径三尺(約90㎝)、本口(柱の根元)径三尺八寸(約114㎝)、長さ七丈(約21m)の柱が28本、長さ六丈六尺(約20m)の柱が28本、長さ三丈(約9m)の柱が28本あったと語る。大仏殿はじめ高さ100m近い東西の七重塔、講堂の造営には、膨大な量のヒノキ材が用いられた。
平安時代後期に至って東大寺は時の平氏政権と対立した末に、
鎌倉期復興の東大寺は、戦国時代末期に松永久秀の東大寺大仏殿の戦いに巻き込まれ、またも炎上する。以降、大仏は仮補修が行われたものの、戦国の混乱、あるいは森林資源の枯渇ゆえ大仏殿がない露座のままで100年ほど放置されていた
[35]
。江戸時代の中期、僧・公慶は時の
昭和中期、全国の営林局長が会合を開いた折、「東大寺南大門の材を現在、国産で確保できるか」との議題が上ったが「望みなし」との結論に達した。南大門を支える柱は18本、いずれも直径1m、長さ21mの長大な材だが、同様のヒノキ材をすべて国産材で賄うのは現在では不可能である [39] 。
明治後期、日清戦争勝利の結果として台湾を領地に組み込んだ日本は当地の山岳地帯、とりわけ阿里山周辺に繁茂する
タイワンヒノキや同属異種のタイワンベニヒノキ
Chamaecyparis formosensis
の森林資源に着目し、日本本土では入手不可能な大径木を求めて森林鉄道を敷設した。台湾ヒノキは日本本土にも移出され、一部は神社建築にも使用された。タイワンヒノキの使用は明治神宮の
鳥居
[11]
や靖国神社の神門、
-
創建時の東大寺の模型。大仏殿に加え、高さ100mに及ぶ東西の塔が存在した。
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鎌倉時代、周防国や長門国産のヒノキ材で建造された東大寺南大門。この規模の木造建築の用材を国産ヒノキで確保するのは、現在では不可能である。
-
江戸時代の元禄年間に再建された東大寺大仏殿。森林資源の枯渇から、柱には小材を金輪で締め上げた集成材を使用している。
精油 [ 編集 ]
特有の香気のあるヒノキチオールが採取できる。ただしヒノキから取れる量は微量とされ、商業的には台湾原産のヒノキ科樹木であるタイワンヒノキ、もしくは国産の場合はヒノキアスナロから採取される。
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ヒノキチオールの構造式
花粉症 [ 編集 ]
広い範囲で植栽され、花粉が風媒されるという点は同科のスギと同じであり、ヒノキもまた花粉症の原因となることがある。無花粉ヒノキの探索と固定はヒノキの育種の課題の一つとなっている。
土砂災害とヒノキ林 [ 編集 ]
前述のように葉が速やかに分解されるという性質を持つために、適切な時期に間伐をしなかった等で下層植生が乏しいヒノキ林ではほかの森林よりも雨滴などによる土壌侵食を受けやすいとされる。また、スギや広葉樹と比べてヒノキは引き抜き抵抗力が低いことが指摘されている(ただし、スギは若齢時はヒノキよりも低いという) [41] 。
保全状況 [ 編集 ]
ヒノキは日本においては絶滅の危機に瀕してはいないという扱いであるが、過去の大量伐採による推定の減少率の評価をめぐっては異論も存在する [1] 。
ヒノキをシンボルとする自治体 [ 編集 ]
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- 県の木
- 市町村の木
- 北海道: 上ノ国町
- 福島県:檜枝岐村
- 栃木県:塩谷町
- 千葉県:長南町
- 東京都:
檜原村 - 山梨県:南部町
- 長野県:南木曽町、上松町(木曽ヒノキ)、王滝村、大桑村
- 岐阜県:白川町
- 三重県:尾鷲市、度会町
- 滋賀県:日野町
- 京都府:福知山市、井手町
- 岡山県:新見市
- 山口県:萩市
- 愛媛県:鬼北町、松野町
- 高知県:安芸市、津野町、本山町、三原村
- 熊本県:湯前町
- 鹿児島県:伊佐市
脚注
[
編集
]
- ^ a b Farjon, A. 2013. Chamaecyparis obtusa. The IUCN Red List of Threatened Species 2013: e.T42212A2962056. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2013-1.RLTS.T42212A2962056.en. Downloaded on 04 May 2018.
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chamaecyparis obtusa (Siebold et Zucc.) Endl.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList) . 2021年6月20日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 西田尚道監修 学習3ds ドラクエ 8 カジノ編 2009, p. 29.
- ^ “檜・桧(ヒノキ・ひのき)”. 森林・林業学習館. 木下直. 2022年2月2日閲覧。
- ^ a b 岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科 植物生態研究室(波田研)のホームページ (2017年8月17日閲覧)
- ^ “ヒノキ/檜/桧/ひのき”. 語源由来事典. ルックバイス. 2022年2月2日閲覧。
- ^ a b c d e f 山﨑誠子 2019, p. 30.
- ^ 農林水産省 東北森林管理局「ヒバとは」
- ^ a b c d e f g 田中潔 2011, p. 106.
- ^ 田中潔 2011, p. 93.
- ^ a b c d e f g 田中潔 2011, p. 107.
- ^ 野田市ホームページ「草花図鑑 ヒノキ」
-
^
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- ^ とりすみコラム 現在の集成材の原理である寄木造り・合成柱の技法
- ^ a b 海野聡 2022, p. 211.
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- ^ [ リンク切れ ]
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参考文献 [ 編集 ]
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ISBN
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- 山﨑誠子『植栽大図鑑[改訂版]』エクスナレッジ、2019年6月7日、30 - 31頁。 ISBN 978-4-7678-2625-7。
- 海野聡『森と木と建築の日本史』岩波書店、2022年4月20日。 ISBN 978-4004319269。
- 榎本渉、小川光彦、向井亙、森達也『モノから見た海域アジア史』九州大学出版会、2022年11月30日。 ISBN 978-4798502953。